ネットから学ぶデザインの基本

「もしかしたら、Sの作戦に乗せられてしまったかな……」2006年3月中旬、小腹を空かせ深夜2時過ぎに缶チューハイとつまみを買おうと近所の「S」へ出かけた時のことだ。 東京地方はこの日、夜半まで降っていた強い雨が止むと南からの暖かい風が吹き込み、この時期としてはやや蒸し暑くなっていた。
酒売り場でお目当ての商品を買い物かごに入れ、レジに向かおうとしたその矢先に、弁当や惣菜などの売り場にたくさん並べてある「冷し手延べそうめん」(305円)が目に飛び込んできた。 そうめんといえば夏の食べ物のように思いがちだが、なぜか無性に食べたくなってしまい、気がつくと買い物かごに一つ入れていた。
そのときにふと頭をよぎったのが冒頭の思いだった。 「消費者の行動は経済学では説明できない、心理学で考えなくてはいけない」。
コンビニエンスストア最大手、Sの創業者、S会長は日ごろから消費者心理という言葉を頻繁に使い、気候の変化やイベントなどで消費者の行動が大きく変わることを指摘していたからだ。 早速、翌日S本部に「冷し手延べそうめん」の売り上げについて聞いてみた。
するとこんな答えが返ってきた。 「三寒四温という言葉がありますが、春は寒暖の差が激しくなります。
急に暖かくなると、そうめんやざるそばのような商品の売れ行きがよくなるので、各店舗には気温の変化をうまくとらえた発注をお願いしています」「冷し手延べそうめん」を買ったときの東京の気温は約13度。 その1日前の同じ時間は8度だった。

この5度の気温差と蒸し暑さが重なったことで、まんまとSの営業戦略に乗せられたのだった。 とはいえ、無理やりにそうめんを買わされたわけではまったくなく、むしろそうめんのほうから「食べて下さい、買って下さい」と寄り添ってきて、その誘いに知らぬ間についていってしまったような感じすらある。
Sには「冷し手延べそうめん」のように消費者の心を読み解こうとする取り組みが随所に隠されている。 そして、その積み重ねが日本最強の小売業に上り詰めた原動力になっている。
多くの読者は店舗面積約百平方メートル、ファミリーマンション程度の広さしかないコンビニエンスストアについて、Sも、第2位のLも、第3位のFも、そんなに企業の力に差はないと考えているかも知れない。 しかし、それは違う。
ほとんど同じような大きさの店を同じような場所に構えているにもかかわらず、Sの1店舗の1日あたり売上高は2005年2月期で63万9千円。

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